United93

United93.前半では,United93便がハイジャックされる前,American11便とUnited175便がWTCに衝突し,さらにAmerican77便がペンタゴンに墜落するまでを,関係する空港管制塔と軍部の視点から,その混乱ぶりを交えて客観的に再現している.後半がUnited93のハイジャック後の機内の様子だ.

全体を通して感動を煽るような演出は一切無く,実話に近づけようとしていることは理解できる.しかし,それでも後半の機内のストーリーに関しては全てが憶測なわけだ.そういう観点から批判する声も多いらしい.実際,中途半端にリアルに描いてしまっているため,ドキュメンタリーのようでもあり,フィクションのようでもあり,何ともいえない内容になってしまった気がする.

一方,前半の描写に関しては,完全に再現している(大半の登場人物を役者ではなく本人が演じている)わけだが,こちらは非常に大きな恐怖を感じた.あれから5年が経ったわけだが,今こうやって見ると「911前の米国って,こんなだったっけ?」みたいな平和ボケぶりだ.ハイジャックという事態を全く想定していなかったため,ただ航跡を傍観するだけの空港管制塔.混乱する指揮系統と煩雑な手順の都合で,動きたくても動けない空軍.彼らの情報源はCNNが生中継するWTCの映像だったりする.本作では触れられていないが,このように現場が「もっと戦闘機を出動させてくれ」「撃墜の許可をくれ」と要望を出している中で,米軍の最高司令官はNYの小学校でノンビリと絵本を読み続けていたわけだ. ここで日本の状況を考えると,911後で空港での各種規制が強化されているとはいえ,根本的には911前の米国とほぼ同レベルじゃないかと思う.こんなカオス的な危機を想定しているとは思えない.

ところで,あの日の俺の記憶では,最初は深夜の研究室で帰り際に「WTCに小型機が衝突」とasahi.comで見た気がしたのが,その後で帰宅してTVをつけたら「WTCにハイジャックされたジャンボ機が衝突」に変わっていて「記憶違いかな?」と思っていたのだが,やはり第一報は「WTCにセスナ機が…」だったようだ.

できればWorld Trade Centerと併せて観たかったが,こちらは10月7日公開だそうな.