ファストフード・ネイション

Fastfood Nation

前評判では「これを見るとハンバーガーを食べる気が完全に失せる」みたいな噂だったが,実際には(例えば"Super Size Me"みたいに)ファストフードを標的とした映画じゃなくて,どちらかというと市場原理主義経済の縮図としてファストフードを取り上げているという感じ.メインテーマは,中南米からの不法入国者を経済ヒエラルキーの最底辺で使い捨てにしつつ,製品の安全性や品質をギリギリまで下げて利益最大化を図る米国企業の現状だ.日本でも若干似た状況になりつつあるが,米国の場合は(不法と合法をひっくるめて)中南米系の人口が近い将来に過半数に達する*1と言われるレベルなので,やはり日本とは次元が違うのだろう.

本作の内容は完全にフィクションで,いわゆる群像劇のスタイルで3つのシナリオがビミョーに交錯しつつ並列で進み,最後までこれといって結論めいたものは無く終わる.その終わり方も含めて絶妙にリアルだ.なお,本作はAvril Lavigneが映画初出演なのだが,かなりしょーもないチョイ役だ.別に何も期待していなかったが,ホントにどーでも良い役だった.

先述の前評判に関して言えば,ファストフードのパテ肉加工の過程とか店員の調理過程とかが一切見えないことへの恐怖感というのもわからなくはない.しかし(Bruce Willis演じる人物が言うように)そんなことを言い出したらキリが無いよなぁ.例えばベジタリアンになったとしても,別にそういう問題が解消されるわけでもないし.この映画を見たからといって新たに恐怖を覚える人間というのは,普段よっぽど何も物事を考えずに生活してるんじゃなかろうか.ただ,最後の方で出てくる(というか,最後まで敢えて出さない)屠殺場のシーンはモロな血塗れ映像なので「殺された牛さんがこっちを見てるよ…」みたいにショックを受けるナイーブな人もいるのかもしれないが.

本作中で食肉工場の悪臭に言及するシーンが何度も出てくるのだが,その話題になるたびに(15年くらい前にあった)品川東口のテニスコートを思い出した.近くに食肉工場があって,風向きによっては強烈な悪臭がしたんだよなぁ.

*1:今回の大統領選での争点はイラク問題と移民問題と言われていたのに,サブプライムローン問題の発生で,結果的に経済問題以外は全て忘れ去られてしまった.